『地球は特別な惑星か?』(成田憲保)

講談社ブルーバックスの『地球は特別な惑星か?』を読みました.

本屋さんできれいなカバー写真にひかれて購入したまましばらく積ん読状態になってましたが,ようやく食指が動いた感じです.著者が当該分野で最先端の研究に取り組む研究者だけあって,本書は太陽系外惑星の発見史に軽く触れた上で,最近の研究成果や今後の展望についても詳細に解説していて,とてもワクワクさせられる一冊でした.もっと早く読めばよかった.

地球は特別な惑星か? 地球外生命に迫る系外惑星の科学 (ブルーバックス) | 成田 憲保 |本 | 通販 | Amazon

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内容の簡単な紹介はnoteにまとめたのでそちらへのリンクを張っておいて,

以下では読んでて特に印象に残った点にふたつほど触れておこうと思います.

 

 

ペガスス座51番星まわりの系外惑星の発見

一つは2019年ノーベル物理学賞を受賞する成果にもなった,ミシェル・マイヨール*1ディディエ・ケロー氏によるペガスス座51番星まわりの系外惑星の発見に関するエピソード.

 

当時,系外惑星を探査する上で有力と考えられていた手法は視線速度法と呼ばれるものでした.視線速度法は,ドップラー効果を利用して視線方向における明るい恒星の速度を何度も観測して,その微妙な時間変化を検出しようとするものです.

もし恒星のまわりを惑星が公転していると,恒星は惑星の重力によってじゃっかん揺さぶられます.そのため,恒星の視線速度から周期的な運動が検出されることになります.観測精度の向上によって,当時すでに木星くらいの重い系外惑星があれば検出できるようになっていました.

 

太陽系形成の標準理論をもとにしたそれまでの常識では,木星のような重い惑星は公転周期が長いと考えられていました.実際,太陽系における木星の公転周期は約12年です.そのため,多くの天文学者たちはそうした長い周期の系外惑星を発見するため,観測の間隔をそこそこあけて,長いスパンでの観測プロジェクトを実施していました.

しかし1995年,系外惑星を最初に発見する最有力の研究グループと考えられていたゴードン・ウォーカー氏らが,21個もの明るい恒星のまわりで10年を越える系統的な探査を実施したにもかかわらず,それらのまわりに系外惑星の兆候をひとつも検出できなかったことを報告し,系外惑星研究に暗雲が垂れ込めました.

 

そんな中,発表されたのがマイヨール氏らによる系外惑星の発見でした.この書籍でもこの発見にまつわる一連のエピソードが紹介されているのですが,興味深かったのは当初マイヨール氏らも他の天文学者たちと同じように,観測の間隔をそこそこあけて系外惑星を探査していたことです.

 

しかし彼らが他の研究グループと違ったのは,実際に取った観測データを見ていく中で,ペガスス座51番星の視線速度が少し変動していることに気付いたことでした.そして,頻度を上げた観測時間を投入して,4.2日という常識破りの短い周期性を検出したことでした.

 

観測精度ぎりぎりのところで最先端の研究をしていると,想定外にシグナルが弱くて非検出に終わることはしばしば起きることかと思います.ただ,データと向き合う中でそこに潜む別の可能性を見出し*2,そこにリソースを投入して検証したというこのエピソードはいろいろと示唆に富むものなんじゃないかなと思いました*3

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ブレークスルー・スターショット

もう一つはブレークスルー・スターショットという将来計画の紹介です.この計画は,太陽系にもっとも近い恒星系であるケンタウルス座アルファ星系に探査機を送り込むというもの.ロシアの投資家ユーリ・ミルナー氏らが出資している,地球外生命探索を活性化させるためのプロジェクトであるブレイクスルー・イニシアチブのひとつです.

 

ケンタウルス座アルファ星系のプロキシマ・ケンタウリには,2016年にハビタブルプラネット*4の検出が報告されています.そこで,この惑星に接近して表面の様子を観測し,そのデータを地球に送ることが検討されています.

 

ただ,プロキシマ・ケンタウリまでの距離は4光年以上もあるため,通常の宇宙ロケットなどでは時間がかかりすぎてしまいます.そこで,カメラや推進システム,通信機器といった最低限のものが搭載されたスターチップと呼ばれるきわめて小型の宇宙船を,光の圧力を受けて推進する1平方メートル程度のライトセイルと呼ばれる帆に搭載し,地球からライトセイルに対して強いレーザー光線を照射することで光速の20%という速さで加速させる,というアイデアが提案されています.これにより,プロキシマ・ケンタウリまで30年程度で到達することができると考えられています.地球からプロキシマ・ケンタウリに至るまでに,小惑星のような小さい天体と衝突して故障してしまう恐れがあるため,1個だけではなくたくさん打ち上げることが検討されています.

 

ただ,この計画に必要な技術はまだ確立されていません.近い将来そうした新しい手法で宇宙の姿が明かされる日が訪れるのでしょうか*5. 

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ここに記した以外の内容も盛りだくさんで,系外惑星研究についていろいろと知ることのできる大変コスパの良い一冊という印象でした.当該分野の今後の進展も楽しみです.

 

*1:マイヨール氏といえば,須藤靖氏によるどこかの講演で見かけたこちらの写真をどうしても思い出してしまうような.(どういう写真だったか説明は忘れてしまったのですが.)

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たとえば,http://www-utap.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~suto/ の「lectures」> 「2010年 国内 学会・研究会 講演」> 「土佐中学高等学校 90周年記念講演会」の資料33ページ目など.

*2:マイヨール氏らが最初に得た観測データを見たことがないので,それがどれくらいシブいものだったのかは分からないです.案外,観測限界ぎりぎりではなくてそこそこ明らかな短周期運動を示してたり?

*3:こちらの画像はペガスス座51番星とその惑星の想像図.Wikipediaより転載:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%82%AC%E3%82%B9%E3%82%B9%E5%BA%A751%E7%95%AA%E6%98%9Fb

*4:主星からの距離がちょうどよく,その表面に水を保持できるような惑星のこと.単に水が存在できる必要条件を満たしているだけなので,水が存在しているかは不明ですし,ましてやそこに生命がいるかどうかは全くわかりません.その定義で「ハビタブル」はちょっと言い過ぎではないかという意見を聞いたことがありますが,当該分野の慣例でそのように呼ばれるようです.

*5:こちらの画像は以下のwebページより転載:https://www.discovermagazine.com/the-sciences/breakthrough-to-the-stars