『「ロウソクの科学」が教えてくれること』(尾嶋好美 編訳,白川英樹 監修)

サイエンス・アイ新書から出ている『「ロウソクの科学」が教えてくれること』を読んでみました*1.『ロウソクの科学』は19世紀に活躍したイギリスの科学者マイケル・ファラデー氏が,イギリス王立研究所のクリスマスレクチャーとしておこなった講演をもとにした世界的名著とされる書籍です*2

 

「ロウソクの科学」が教えてくれること 炎の輝きから科学の真髄に迫る、名講演と実験を図説で (サイエンス・アイ新書) | Amazon

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ロウソクの科学』は,これまでにもいくつかの出版社から翻訳書が出ていて手にとったことはあったのですが,正直なところじゃっかん読みにくいと感じていました.

私が『ロウソクの科学』の存在を知ったのは,たしか学部1年の際に受けた永田敬氏による化学の概論的な講義で紹介されたときだったように記憶しています.『アトキンス物理化学』とともに絶賛されていたので*3,その後に書籍部でパラパラと眺めてみたのですが,『ロウソクの科学』は古めかしく感じてしまうようなもので,購入することなくすぐに書籍を閉じてしまいました.その後も,岩波文庫の棚などで見かけた際に何度か手にとったように思いますが,まだその時ではないかなと感じてしまってそっと棚に戻していました.

「ロウソクの科学」が教えてくれること』の「おわりに」で白川氏も

世界的な名著との評判だったので,学生の頃に何回か完読に挑戦したが果たせなかった.

と書いていて,ですよね,っていう.白川氏の考察によると,そうなってしまいがちな理由は大きく二つあって,

1.この講義の主な題材であるロウソクはもはや身近な存在ではない.

2.実験結果などを見ながらファラデーの語りを聴くことのできる実際の講演と違って,書籍では限られた図版と講義録をもとにした文章でしか様子をうかがうことができない.

とのこと.もしかしたら『ロウソクの科学』に限らないかもですが,個人的にはこの二点目がけっこう効いている気がします.書籍をパラパラ眺めた際,どういう現象を説明しているかよくわからないと感じる箇所がそこそこあったような.

 

そんな中で目に留まったのが今回読んだ『「ロウソクの科学」が教えてくれること』でした.

この書籍ではこれまでの『ロウソクの科学』が抱えていた難点が大きく改善されていて,読者の理解の助けとなるようなカラー写真やイラストが数多く掲載されています.また,講義録をもとにした文章をそのまま翻訳するのではなく,話の流れが理解しやすいように重要な点をそのまま引用しながら,現代の視点から語り直してくれています.家庭などで比較的手軽にできそうな実験については,その手順や注意点などをまとめてくれているのも魅力です.

おかげさまで途中で挫折することなく最後までひと通り読むことができました.いくつかの化学反応は中学や高校の頃に実際に実験を経験したような内容*4でなんだか懐かしくも思いました.

 

また,章末コラムのひとつにあった「科学を伝える」も興味深い内容でした.

科学者にとっては,科学ははかりしれない魅力があるものだが,残念ながら一般の人々は,その道に花が咲き乱れていないと,1時間という短い時間でも我々についてきてくれない.

落ち着いてゆっくりと話すこと.発生の技術を身につけ,思っていることや言いたいことをなめらかに調子よく,しかも単純で易しい言葉で表す力を持つように,あらゆる努力をしなければならない.伝えたいことが明瞭に伝わるような文と表現にすること.聴衆が理解のために労力を使うことになると,倦怠,無関心,あるいはうんざりといった気持ちにさせてしまう. 

これはまさにその通りと思われて,一般向けの講演をする際は,ちゃんと引き出しを用意しておくことがとても重要と思っています*5.『ロウソクの科学』を読み切ることができなかったのもおそらくここに通じるものがある気がしていて*6,それがこの『「ロウソクの科学」が教えてくれること』では,プレゼンテーション方法が大きく改善されることによって,より多くの人たちに届きやすい内容になっているように思います.

 

サイエンス・アイ新書には他にもきれいなカラー写真や図などで楽しませてくれるものが多い印象なので,気が向いたらまた読んでいきたい.

サイエンス・アイ新書 | SBクリエイティブ

 

*1:これもAmazon Kindleで期間限定で半額になってたときに購入しました.iPadなどで見ると新書で見るよりカラー写真を大きく見ることができて良い感じです.

*2:イギリス王立研究所のクリスマスレクチャーを含む最近のコンテンツはYouTubeで見ることができるようです.The Royal Institution - YouTube

*3:…と思ったのですが,もしかしたら絶賛されてたのはアトキンス氏による『新ロウソクの科学』の方だったかも.

*4:特に,カリウムを水の中に入れる実験は中学の際にやって,あまりに激しく反応することに驚いた記憶が今でも鮮明に残っています.今ではそんな実験もYouTubeで動画で見ることができるんですね:https://www.youtube.com/watch?v=4zzDXP38G4Y

*5:用意しておかないと,説明しようとした際に研究者同士で使っているような(理解するのに前提知識が多々必要な)言い回ししか出てこない,といった状況になったりするような.

*6:咲き乱れている花をすぐには見つけられなかったような.